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揺らぐ花は影に咲き
2008.02.02 |Category …【銀雨】深都貴
―旧年が往き、新年が来る。。。
冬休みという事と、年始には何かと家の仕事が増える為
深都貴は、姉の奈都貴と共に 京都にある実家に帰省していた。
年越しの諸事の手配があらかたひと段落して、やっと一息をついた深都貴に
一人の青年が声をかける。
「深都貴様、少し宜しいですか?」
「…何でしょう」
声をかけたのは、風羽という名の花乃宮流華道の内弟子の一人だ。
主に、『裏』との繋ぎとしてやってくる。
となれば、今回もそうだろうと予想して、深都貴は『影の花』の顔で答えた。
「玉菊の御方様より、影桜の間へ来るよう託っております」
玉菊の御方…『裏』の重鎮。父宗主の従兄弟にあたる人の別称だ。
やはり『裏』からの話に違いないらしい。
冬休みという事と、年始には何かと家の仕事が増える為
深都貴は、姉の奈都貴と共に 京都にある実家に帰省していた。
年越しの諸事の手配があらかたひと段落して、やっと一息をついた深都貴に
一人の青年が声をかける。
「深都貴様、少し宜しいですか?」
「…何でしょう」
声をかけたのは、風羽という名の花乃宮流華道の内弟子の一人だ。
主に、『裏』との繋ぎとしてやってくる。
となれば、今回もそうだろうと予想して、深都貴は『影の花』の顔で答えた。
「玉菊の御方様より、影桜の間へ来るよう託っております」
玉菊の御方…『裏』の重鎮。父宗主の従兄弟にあたる人の別称だ。
やはり『裏』からの話に違いないらしい。
▽つづきはこちら
***
『裏』―花乃宮を影から支える分家中心の組織。
他家との交渉事、諸問題の請負、そして…宗主と後継者を影から支える事。
深都貴も、その一員である事を自ら選んだ。
中学に入学する時に。
姉の力になりたかった。姉の為になるのなら、自分は『影の花』で良いと思った。
宗主の双子の、妹。
常に、姉と扱いに差のある歪んだ双子。
自分に存在価値を見出せなくて、いつ消えても誰も困らない……ただ一人を除いて。
当の姉だけが、奈都貴だけが、深都貴をずっと見ていた。
いつだって、深都貴が居なければ困るのだと 必要なのだと示して見せた。
だから、奈都貴の為に生きようと思った。
例え、生まれながらの影武者と言われても。
奈都貴にだけは、笑っていて欲しいから。
「………すぐ、参ります」
影桜の間は、板張りの床が冷たく少し薄暗かった。
さほど広い部屋ではない、精々8畳程度の部屋だ。
「失礼致します。 深都貴です」
「入れ」
影桜の間が狭く、薄暗いのには理由がある。
囲む壁は厚く、窓も採光用のものが高い位置に小さくあるだけなのだ。
そして、その理由は一つ…密談用の部屋だから である。
深都貴を待っていたのは、玉菊の御方 花森朔之丞。
ここまで案内し、今は外で控えてる風羽の父でもある。
朔之丞は、当たり障りのない話をいくつかしたあと本題を切り出した。
「奈都貴お嬢様なりたない、いっとるらしですな」
主語のない言葉。
けれど、深都貴はそれを正確に読み取って答えた。
「…奈都貴様はまだ、子供でらっしゃいますから」
「なんでも、任を放り出して 出奔すら考えとるらしとか?」
「…」
深都貴は、内心焦りを覚えていた。
確かに奈都貴は、家を嫌っていて、実家に帰ってくるのも出来るなら
やめたかっただろうと思えた。
でも、それは深都貴と極一部の『裏』しか知らない事実のはずだ。
そして、その一部に朔之丞は入っていない。
と言うのも、『裏』の中にも派閥があり、奈都貴を後継へと後押しする派閥と
廃嫡を後押しする派閥があり、朔之丞は後者の重鎮だからだ。
「……ありえませんわ」
答えつつ、深都貴は朔之丞が自分に態々それを言う理由を探った。
朔之丞もその疑問に気が付いたらしく、
「何で、それをワシが言いはったのか、疑問っちゅう顔やな」
「えぇ、私は奈都貴様の『影の花』ですから」
強い視線で、親子ほども歳の離れた朔之丞を見返す。
それを朔之丞は仄かに笑い受け止め
その言葉を告げた。
「支えるべき花が折れれば、影にも光が当たるっちゅう事や
宗主様は、齢16になっても 奈都貴お嬢様が変わらなければ
処置を考える、と」
何を言われたのか、一瞬理解が遅れた。
けれど、告げられた言葉を何度解釈しても 同じ答えにしか辿りつけない。
「だから、ワシは 深都貴お嬢様にお話させてもろたんですわ
優秀な貴女こそ、花乃宮の光を浴びるに相応しい」
「な…にを……」
足元がぐらつく感覚に襲われつつ必死に冷静を保とうとするが、それ以上に
もたらされた衝撃が大きすぎた。
その後、朔之丞と何を話して どうやって自分の部屋に帰ってきたか
深都貴には、まるで思い出せなかった。
「このままじゃ…いけないわ 奈都、私はどうしたら いい? 奈都は、どう…したい?」
形の無い不安と焦燥がつのり、冷静を欠いた深都貴は無意識に携帯そっと手を伸ばした。
揺れるのは小さなストラップ。
送り主も、大きな家の後継者。
何故か、心が落ち着いた気がした。
「うん…まだ、決まった訳じゃ ないわ
大丈夫」
まずは、奈都貴の気持ちを確認しよう。
例え、父宗主や他の一族が敵でも 私だけは、奈都貴の味方なンだから。
私“も”、頑張ろう。
そう考え、顔を上げた深都貴からは もう先ほどまでの衝撃は伺えなくなっていた。
少なくとも、表面上は。
渦巻く感情は胸の内。
辛うじての綱渡り。
昔は、双子の姉が救い上げた。
そして今は、
――――ストラップが救い上げたのかもしれない。
『裏』―花乃宮を影から支える分家中心の組織。
他家との交渉事、諸問題の請負、そして…宗主と後継者を影から支える事。
深都貴も、その一員である事を自ら選んだ。
中学に入学する時に。
姉の力になりたかった。姉の為になるのなら、自分は『影の花』で良いと思った。
宗主の双子の、妹。
常に、姉と扱いに差のある歪んだ双子。
自分に存在価値を見出せなくて、いつ消えても誰も困らない……ただ一人を除いて。
当の姉だけが、奈都貴だけが、深都貴をずっと見ていた。
いつだって、深都貴が居なければ困るのだと 必要なのだと示して見せた。
だから、奈都貴の為に生きようと思った。
例え、生まれながらの影武者と言われても。
奈都貴にだけは、笑っていて欲しいから。
「………すぐ、参ります」
影桜の間は、板張りの床が冷たく少し薄暗かった。
さほど広い部屋ではない、精々8畳程度の部屋だ。
「失礼致します。 深都貴です」
「入れ」
影桜の間が狭く、薄暗いのには理由がある。
囲む壁は厚く、窓も採光用のものが高い位置に小さくあるだけなのだ。
そして、その理由は一つ…密談用の部屋だから である。
深都貴を待っていたのは、玉菊の御方 花森朔之丞。
ここまで案内し、今は外で控えてる風羽の父でもある。
朔之丞は、当たり障りのない話をいくつかしたあと本題を切り出した。
「奈都貴お嬢様なりたない、いっとるらしですな」
主語のない言葉。
けれど、深都貴はそれを正確に読み取って答えた。
「…奈都貴様はまだ、子供でらっしゃいますから」
「なんでも、任を放り出して 出奔すら考えとるらしとか?」
「…」
深都貴は、内心焦りを覚えていた。
確かに奈都貴は、家を嫌っていて、実家に帰ってくるのも出来るなら
やめたかっただろうと思えた。
でも、それは深都貴と極一部の『裏』しか知らない事実のはずだ。
そして、その一部に朔之丞は入っていない。
と言うのも、『裏』の中にも派閥があり、奈都貴を後継へと後押しする派閥と
廃嫡を後押しする派閥があり、朔之丞は後者の重鎮だからだ。
「……ありえませんわ」
答えつつ、深都貴は朔之丞が自分に態々それを言う理由を探った。
朔之丞もその疑問に気が付いたらしく、
「何で、それをワシが言いはったのか、疑問っちゅう顔やな」
「えぇ、私は奈都貴様の『影の花』ですから」
強い視線で、親子ほども歳の離れた朔之丞を見返す。
それを朔之丞は仄かに笑い受け止め
その言葉を告げた。
「支えるべき花が折れれば、影にも光が当たるっちゅう事や
宗主様は、齢16になっても 奈都貴お嬢様が変わらなければ
処置を考える、と」
何を言われたのか、一瞬理解が遅れた。
けれど、告げられた言葉を何度解釈しても 同じ答えにしか辿りつけない。
「だから、ワシは 深都貴お嬢様にお話させてもろたんですわ
優秀な貴女こそ、花乃宮の光を浴びるに相応しい」
「な…にを……」
足元がぐらつく感覚に襲われつつ必死に冷静を保とうとするが、それ以上に
もたらされた衝撃が大きすぎた。
その後、朔之丞と何を話して どうやって自分の部屋に帰ってきたか
深都貴には、まるで思い出せなかった。
「このままじゃ…いけないわ 奈都、私はどうしたら いい? 奈都は、どう…したい?」
形の無い不安と焦燥がつのり、冷静を欠いた深都貴は無意識に携帯そっと手を伸ばした。
揺れるのは小さなストラップ。
送り主も、大きな家の後継者。
何故か、心が落ち着いた気がした。
「うん…まだ、決まった訳じゃ ないわ
大丈夫」
まずは、奈都貴の気持ちを確認しよう。
例え、父宗主や他の一族が敵でも 私だけは、奈都貴の味方なンだから。
私“も”、頑張ろう。
そう考え、顔を上げた深都貴からは もう先ほどまでの衝撃は伺えなくなっていた。
少なくとも、表面上は。
渦巻く感情は胸の内。
辛うじての綱渡り。
昔は、双子の姉が救い上げた。
そして今は、
――――ストラップが救い上げたのかもしれない。
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