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緋色に染まる天、暁の空

無限&銀雨用日記 あるファンタジー世界に生きる吟遊詩人の少女 あるいは、IFの現代日本に生きる霊媒士の少女 彼女たちの日々の覚書。 判らない人は要、退却~。

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【銀雨】その感情は、母への想い。

その日、ホウリンがクラスでその会話で聞いたのは、偶然。
話題の内容が、『母』の日であったのは、もしかしたら必然だったのかもしれない。

いつものように、クラスでも前に出ず ただクラスメイトの会話の聞き役に周り聞いていたのだが。
「…媽媽…に、…花?」
カーネーションなどの花を日ごろの感謝に贈るのだ、そう聞いた彼女は首をかしげた。
彼女には初めて耳にした習慣であったから。

それも、無理はないかもしれない 異郷のそれも秘境と呼べるような独特の文化圏で生まれ育った彼女なのだから。
兎も角、中国ではどんな花が喜ばれるのかと 贈る花に迷っている少女たちに問われて少し困った。
彼女たちがホウリンに話を振ったのは、深い意味などないのだろう。
あるとすれば、違う国の人なら違った意見が聞けて良いかも♪ 位だろうか。

だが、生憎ホウリンには贈る花で悩んだ経験など全く無かった。
なので、知識として知ってる縁起の良い花の名を記憶から引っ張り出し答える。

胡蝶蘭、牡丹、福寿草。
祝った事は無い、祝われた事も無い、ただ知識として知っている、花。


▽つづきはこちら

 

---------------------------------------------------------------------------

鍵を回し、簡素な作りの部屋に入る。
目に入るのは、小さなベッド、机、小さな衣装箱、そして電話機。
家具らしい家具はそれしかないその部屋が、ホウリンの暮らす部屋。
学習かばんを机の脇に置き、いつもの義務を果たすべく受話器を取る。

やがて聞こえる声は、遥か海を越えた場所と通じた声なのだが改めて考えると凄い。
そう思いながら、彼女は彼女の保護者にいつものように、今日の出来事を報告する。

保護者に毎日電話をする事、離れた場所に居る保護者へ自分の状態を知らせる事。それが彼女の義務だった。
本来は、出来事を逐一報告する必要はなく、ただ声を聞かせればいいだけなのだが。
元々、雄弁な性質ではないホウリンの事。話す内容に困り、今のように出来事の報告という形を取るようになったのだ。

『…今日は、…クラスの女の子達と、話した。…花の事を聞かれたから、答えた。』
『花?』
中国語で話すホウリンは、日本語の時よりは判りやすい会話ではあるが、訥々と喋るのは彼女の癖らしく、母国語であってもあまり変わらない。
聞き手の方も慣れているので、気にする事も無く先を促す。
『…そうです、………媽媽に、花を贈る…そういう祝い事があるらしい。』
その言葉に、受話器の向こうから一瞬息を呑む音が聞こえたが、続く言葉はそれまでと変わらぬ落ち着いた優しい声だった。

『母の日、というものだね。でも、気にする事は無いんだよ? 君はもう、あの人とは関わりがないのだから。』
『……うん。』
彼女の媽媽、母は良い人ではなかった。
でも、特別な存在である事には変わりはなかった。
どんな形であれ、今もまだ。

その後会話は、また報告に戻り、程なくして受話器が置かれる。
不意に、母に感謝の花を贈るのだと話した少女たちの笑顔を思い出す。
そうすると、小さな部屋でぽつんと立っている自分が随分とちっぽけに思えた。

心が小さくざわめく。
この感覚には慣れていた。小さい頃から良く感じていた、そのざわめき。
特に母親に関する事で感じていたから、今もきっと母親の事を考えたらからそうなったのだろうと、ホウリンは思っていた。

知らないのだ、それを〔淋しい〕と思っているという事を。

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中国の西安にある一室で、受話器を置いた男はゆっくりと深いため息をついた。
床には、広く趣味の良い調度品の置かれた部屋にそぐわない乱暴に丸められた紙くずが落ちている。
「何が損害だ、ホウリンの心に未だに傷をつける存在の癖に。」
吐き捨てるように呟き、部屋を出て行いく。
紙くず―手紙の送り主たる、少女の母親への対応をする為に。

去り際に、電話越しの愛しい養女の声を思い出し祈る。
『願わくば彼女に…、日本での幸せが訪れるように』

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